「好きな香水を付けると、自信が出る気がする」
そんな感覚を持つ人はいるでしょう。
実際、香りやデオドラントの使用と、自己評価や他人から見た印象の変化を調べた研究はあります。
ただし、先に結論をいうと、
「香りが人の自己評価や行動に影響する可能性を示した研究がある」ことと、「特定の香水を付ければ自信が上がり、恋愛がうまくいく」ことは別です。
研究によって、
- 本人が答えた自信
- 動画を見た第三者が感じた自信
- 写真の魅力度
- 香りを嗅ぎながら見た顔への評価
など、測っているものも異なります。
この記事では、その違いを整理しながら「研究からどこまで言えるのか」を見ていきます。
香りと自信の研究から言えるのは「条件によって変化が見られた」まで
香りと自信の研究を読むときは、
「香水に自信を高める効果がある」
と一文でまとめないことが大切です。
たとえば代表的なRobertsらの2009年研究では、男性に与えられたのは香料だけではありません。
香料と抗菌成分を含むデオドラントスプレーと、それらの有効成分を含まない対照スプレーを比較しています。研究自体も、この設計では香料と抗菌成分のどちらが結果に寄与したのか切り分けられないと述べています。
つまり、
「香水を付けたら自信が上がった実験」
と簡略化すると、研究内容が変わってしまいます。
2009年研究では男性35人の自己評価と動画での印象を調べた
Robertsらの研究では、19〜35歳の男性35人を、香料+抗菌成分入りのスプレー群18人と、対照スプレー群17人に分けました。
開始時、約24時間後、さらに48時間使用後の計3回にわたり、自己評価を測定しています。男性は研究期間中、普段のデオドラントの代わりに割り当てられた製品を使用しました。
結果として、群間で心理尺度による自信や自己評価した魅力度に違いがみられました。研究本文では、自信については最初の使用から15分後の時点でも予測方向の変化が確認されたとしています。
ここだけを見ると、
「香りで男性の自信が上がる」
と結論づけたくなります。
しかし、研究結果はもう少し丁寧に読む必要があります。
写真では差がなく、動画では差があった
研究では、別の女性8人が男性参加者を評価しました。
静止写真で顔の魅力度を評価した場合、2群の平均には差がありませんでした。
一方、音声を使わない動画を見せると、香料+抗菌成分入りスプレーを使用した群の男性は、対照群より魅力的と評価されました。研究者は、表情や姿勢などの非言語行動に違いが生じた可能性を考察しています。
この違いは重要です。
香りで男性の顔そのものが魅力的になったという研究ではありません。
むしろ、
香りや体臭への本人の認識
↓
本人の自己評価や行動が変化する
↓
動画で見た他者の印象にも違いが出る可能性がある
という仮説に近い内容です。
しかも動画撮影は研究終了時に一度だけで、研究者自身も、この部分は群間比較であるため偶然の差である可能性を完全には除外できないとしています。
香料だけの効果とは言えないのが最大の注意点
この2009年研究で最も重要な限界が、介入内容です。
使用された有効スプレーには、
香料+抗菌成分
が入っていました。
対照品には、その両方がありませんでした。
したがって、
「香りが良かったから自信が変化した」のか、
「抗菌作用で体臭が抑えられたことが影響した」のか、
「両方が関係した」のか、
研究デザインだけでは分けられません。
著者もこの点を明確に認めています。なお、この研究ではUnilever Research & Development所属の共著者が参加し、香料等も同社から提供されています。研究結果が無効になるという意味ではありませんが、研究を評価する際の情報として把握しておくべきでしょう。
まして、この研究からボディセンス、NULL、ジーノストーリアなど、現在販売されている特定商品について同じ結果が出るとはいえません。
日本人女性を対象にした研究でも非言語行動の変化が報告されている
香水と行動を扱った別の研究として、Higuchiらの2005年研究があります。
こちらでは日本人女性31人がインタビュー課題に参加し、一部の参加者は途中から香水を使用しました。
香水群については、事前にその香りを好むことを確認した参加者が選ばれています。
18人の観察者が音声なしの動画を評価したところ、香水を使用した群では、髪や鼻に触れる、姿勢を頻繁に変えるといった「非記号的動作」が減りました。また女性の観察者からは、より自信があるように評価されました。
参加者自身の主観評価では、香水使用後にリラックス感などの変化も報告されています。
ただし、この研究にも重要な制限があります。
香水群はその香水を好む人から選ばれており、完全な無作為割付ではありません。
対象者は31人の日本人女性で、男性ではありません。
さらに研究者自身も、実験上の「香水を渡されたこと」など別の要因が結果へ影響した可能性を挙げています。
したがって、
「好きな香りを身につけると行動が変わる可能性を示した研究」
とは読めても、
「男性がデートで香水を付けると自信が上がってモテる」
という証拠にはなりません。
2024年研究の「自信」は、自分が実際に自信を持ったという意味ではない
さらに新しい研究として、Davies-Owenらは2024年、女性22人を対象に、心地よい香りと顔の評価の関係を調べています。
参加者は、市販ボディウォッシュ由来の香りまたは無臭の空気を嗅ぎながら、自分自身や他の女性の顔画像を見ました。
香りがある条件では、自分・他人の顔について、魅力度・女性らしさ・自信の評価が高くなり、脳波にも違いがみられました。
ただし、ここで測定した「confidence」は、
香りを身につけた本人が「私は自信が出た」と答えた研究ではありません。
香りを嗅ぎながら顔を見て、その顔がどのくらい自信ありげに見えるかを評価した実験です。
しかも参加者は女性22人で、市販ボディウォッシュの香りを嗅覚計から提示しています。
男性が香水を実際に身につけて恋愛場面へ行く研究とは条件が大きく違います。
この研究はUnileverから資金提供と製品提供を受け、複数の著者が同社所属であることも論文に開示されています。
「自信」を測った研究でも内容は同じではない
研究を読むときは、「自信」という一語だけを見ないようにしましょう。
| 研究で観察したこと | 実際に測っているもの | 断定できないこと |
|---|---|---|
| 本人の自信尺度 | 自己申告した心理評価 | 恋愛で成功する |
| 本人の魅力度評価 | 自分をどう感じるか | 他人も同じ評価をする |
| 写真への魅力度評価 | 静止した顔の印象 | 行動や会話を含む総合印象 |
| 動画への魅力度評価 | 非言語行動を含む視覚印象 | 香りそのものを相手が好んだ |
| 動画での自信評価 | 他人から自信ありげに見えるか | 本人が実際に自信を感じている |
| 香りの中で顔を評価 | 香りによる知覚・評価の変化 | 香水着用者の心理変化 |
この区別をすると、「香水で自信が上がる」という広告的な一文と、研究で確認された内容との差が分かりやすくなります。
香りによる気分の変化と「他人から好かれること」は別
好きな香りを使って、
「気分が整う」
「外出の準備ができた気がする」
「自分では心地よい」
と感じること自体を否定する必要はありません。
Higuchiらの研究では、そもそも香水群にその香りを好む人を選んでいました。
Robertsらの研究でも、男性本人が割り当てられた製品の香りをどの程度好んだかと、動画での印象との関連が報告されています。
つまり研究から実生活へ慎重に応用するなら、
「自分が心地よいと感じる香りを、無理のない範囲で使う」
という考え方には一定の合理性があります。
しかし、
「気分が良くなった」
から
「異性が好意を持つ」
へは自動的につながりません。
会話、態度、身だしなみ、相手との相性、その日の状況など、現実の対人関係には多くの要因があります。
フェロモン研究とは分けて考える
香りによる自信や印象の研究と、「人間のフェロモン」の議論も別です。
Wyattの2015年レビューは、アンドロステノン、アンドロステノール、アンドロスタジエノン(AND)、エストラテトラエノール(EST)といった、よく候補に挙げられてきた物質について、人間のフェロモンと確立する頑健な証拠が不足していると論じています。
Hareらの2017年二重盲検研究では、ANDまたはESTへの曝露は、46人を対象とした顔の性別判断にも、94人を対象とした異性顔の魅力度・不貞傾向の評価にも有意な影響を示しませんでした。
2024年のLu・Ye・Wuによる事前登録・二重盲検・プラセボ対照研究でも、170人を対象にANDを調べましたが、社会的距離に応じた寛大さには支持される効果が見つかりませんでした。
ここでいう「social distance」は、人と人の心理的・関係的な近さを使う社会的割引課題のことで、「何メートル離れているか」という身体的距離ではありません。
これらは、
「人間には化学的コミュニケーションが存在しない」
という意味ではありません。
ただ、特定の候補物質の研究結果を、そのまま市販のフェロモン香水の恋愛効果へ置き換えることはできないということです。
研究を香水選びにどう生かすか
ここまで読むと、
「では、自信のために香水を使う意味はないの?」
と思うかもしれません。
そこまで否定する必要もありません。
香水を選ぶときは、
- 自分がその香りを好きか
- 身につけて不快にならないか
- 使う場所に合うか
- 周囲へ強く香らせすぎないか
- 価格・購入条件に納得できるか
を確認すれば十分です。
「この香りなら自信が30%上がる」
「この成分なら女性から好かれる」
といった効果を期待して商品を選ぶ必要はありません。
好きな服を着る、髪を整えるのと同じように、
自分が納得して外出するための準備の一つとして香りを使う
という位置づけなら、研究結果を過度に広げずに考えられます。
もちろん、香水を使わない方が落ち着くなら、それも選択肢です。
結論|「自分の感じ方」と「他人の好意」を分けて考える
香りと自信については、興味深い研究があります。
男性の自己評価に変化がみられた研究。
香水を付けた女性の非言語行動が変化した研究。
香りを嗅ぎながら顔を見ると、自信や魅力度の評価が変わった研究。
ただし、それぞれ研究条件が違います。
とくに代表的な2009年研究は、香料だけではなく抗菌成分を含むデオドラント製品を使った実験であり、香水単独の効果とは切り分けられません。
研究から現時点で考えやすいのは、
好きな香りや自分の体臭に対する安心感が、自己評価や行動へ影響する可能性はある。しかし、その変化が特定商品で再現されることや、恋愛・好意・交際成功につながることは別に確かめる必要がある
というところです。
香水を選ぶなら、「モテる証拠」を探すより、自分が心地よく使える香り・量・場面を選ぶ方が現実的です。
FAQ
香水を付けると本当に自信が出ますか?
特定条件で自己評価の変化を報告した研究はあります。しかし、すべての人・すべての香水で自信が高まるとは確認されていません。2009年研究も香料だけではなく抗菌成分を含む製品を使っています。
香水を付けると他人から魅力的に見られますか?
動画評価で差が出た研究はありますが、静止写真では差が出なかった例もあります。さらに恋愛感情や交際成功を測定した研究ではありません。
好きな香りを選んだ方がいいですか?
香りの好みには個人差があります。今回確認した研究でも、香りへの本人の好みが関係している可能性があります。自分が心地よい香りを候補にしつつ、周囲への配慮も含めて判断するとよいでしょう。
フェロモン香水なら自信や恋愛効果を期待できますか?
「フェロモン」という呼称と、自信・恋愛効果の証明は別です。候補物質ANDやESTについても、魅力度などへの効果を支持しなかった研究があります。